対象疾患と治療

肺塞栓症

心臓から肺へと流れる血管を肺動脈と呼びますが、この肺動脈に血栓がつまってしまう病気を肺塞栓症(肺動脈血栓塞栓症)といいます。これらの血栓の多くは脚から心臓へ戻る血液が流れる下肢・骨盤内の静脈に発生し、血液の流れに乗って肺動脈まで運ばれて最終的に血管に詰まると考えられています。肺血栓症は別名をエコノミークラス症候群ともいい、長時間の安静によって下肢静脈の血液がうっ滞することで血栓が形成され、歩行時などに血栓が肺動脈に詰まって発症することが知られています(震災時に自動車内などで生活する方にも多く発症することが知られています)。下肢静脈に血栓のできやすい状態として病気や入院生活に伴う長期安静のほか、妊娠、整形外科手術、悪性腫瘍などが知られ、高齢化や癌患者数の増加を背景に肺塞栓症は年々増加しています。

肺塞栓症の症状としては呼吸困難、胸痛、頻呼吸などが主なもので、下肢超音波検査、心臓超音波検査、造影CT検査、肺シンチグラフィーを組み合わせて診断及び重症度の判定を行います。治療に関しては多くが抗凝固療法で改善しますが、肺動脈の主要部や下肢静脈に多量の血栓が存在するようなリスクの高い症例に対しては、強力に血栓を溶かす血栓溶解薬を投与したり、下大静脈にフィルターとよばれる傘のような医療器具を挿入して下肢静脈の血栓が移動して肺動脈に詰まるのを予防したりすることがあります。また心肺停止状態に至るほどの重症例に対しては体外循環装置を導入することもあります。

抗凝固薬としては従来ワーファリンが用いられていましたが、最近ではDOACと呼ばれる新しい抗凝固薬が使用可能になっています。DOACはワーファリンと異なり食事制限が不要で、またワーファリンほどの頻回の血液検査も必要としません。そのため抗凝固療法としてDOACが選ばれることが多くなっています。

肺塞栓症は時として致命的な転機をたどることもあり早期の治療開始がのぞましいとされています。また循環器科のみならず消化器外科、整形外科、婦人科などで多く見られる疾患であり、横断的な診療を必要とします。当センターでは他科の医師と連携を取り合いながら早期診断、早期治療に努めています。