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心臓血管センター外科

ステントグラフト治療

当心臓血管センター部長の井元 清隆です。
ここでは、私井元が最近取り組んでおります大動脈の最新治療について皆様にお話させて頂きたいと思います。

大動脈とは心臓より流れ出し全身に血流を送り出す大元となる動脈であり、高い圧力に耐えられるように太く、丈夫な血管です。場所により胸部大動脈、腹部大動脈と名前が変わりますが、今回はこの大動脈が拡大する(瘤化する、と言います)病気についてからお話したいと思います。

さて、下の図は大動脈を表したものです。途中で色々な部位に枝を出しながら全身に血液を送っています。

 

一般的に動脈硬化、動脈硬化と言いますが、これは一種の動脈の老化現象です。動脈が硬く、もろくなる現象であり年齢と共に必ず進行いたします。しかし全ての方に同じように動脈硬化が進行するわけではありません。動脈硬化の進行には危険因子(動脈硬化を助長する病気等)があり、
高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙等が主なものと言われております。大動脈の動脈硬化が進行すると、大動脈が拡大してくることがございます。一般的に、大動脈の径が正常の1.5倍にまで拡大したものを瘤(りゅう)と呼んでおります。胸部大動脈では直径4.5cm、腹部大動脈では3cmを越えると瘤と呼ばれております。


 

ところで、この大動脈瘤の診断にはCTスキャン検査が必須です。
CTスキャン検査自体は以前からございますが、CTの画像診断は最近特に進歩が見られるようになりました。解像度、立体構築、いずれをとっても日進月歩の勢いです。最近の機械の進歩には本当に目を見張るものがございます。

以前のCT画像


最近のマルチスライスCT(MDCTと呼ばれております)により、大動脈を3Dの立体化画像で表示することが簡単に出来るようになりました。これにより、どこに病気があるのかを一目で分かるようになったのです。





そして、このCT画像の進歩が新しいステントグラフト治療に無くてはならないものになっているのです。
ステントグラフト治療のお話をする前に、まずは今まで行われてきた開腹、開胸の大動脈瘤の手術のお話をいたしましょう。


腹部大動脈瘤開腹手術のお話

腹部大動脈瘤は50〜80歳の高齢男性に多い病気で、大抵は無症状であり腹部の拍動するしこりとして発見されるか、腹部のCTスキャン検査により偶然に発見されるか、どちらかのケースが多いようです。一度大きくなってしまった瘤は縮小することはなく(薬では治りません!)、年々拡大してゆきます(平均年間約3mm)。瘤が大きくなる程破裂の危険が高くなります。

瘤の大きさ 年間破裂率
4cm未満 0.3%
4.0~4.9cm 1.5%
5.0~5.9cm 6.5%
6.0cm以上 急速に増大
瘤の大きさ5cm以上は破裂の危険があると言え、日本循環器学会のガイドライン上も治療が必要と言われております。
腹部大動脈瘤の治療は今までは開腹手術が唯一の治療でした。
腹部正中切開でお腹を開け、瘤化した大動脈を人工血管に置き換える治療です。






実際にお腹を開け、腸を避けると腹部大動脈瘤が見えてきます。



瘤の前後の血管で血流を遮断し、人工の血管に置き換えます。



開腹手術での一般的な腹部大動脈瘤の術後経過では、集中治療室滞在が約1~2日間、絶食4~6日間、平均入院期間は約3週間となっております。脳梗塞、心筋梗塞、肺炎、腸閉塞、腸管壊死等の合併症が起こり得ますが、手術死亡率は約1%と比較的安全に施行することが出来ます。
しかしながら開腹手術の危険が大きいと考えられる場合
 心肺機能が低下している方
 以前の開腹手術による癒着が予想される方
 80歳以上の超高齢者の方
この様な患者さんの治療は、開腹手術を行う危険が他の方に比べて高くなります。


胸部大動脈瘤開胸手術のお話

同様に今までの胸部大動脈瘤も開胸手術が一般的でした。胸を大きく切り拡げて大動脈瘤の手術を行います。但し、腹部大動脈瘤と違うところは人工心肺を使うところです。そのまま瘤の前後で血流を遮断する事は出来ない場合が多く(場所によりますが)、人工心肺を使い血液の流れを止めて手術を行います。手術の規模も大きく、やはり体への負担もかなりなものになってしまいます。
又、脳へ血流を送る頸動脈が出ており、手術の際に操作することが多く、これにより脳梗塞を起こす危険もないわけではありません。




実際に胸を大きく開けると、肺の後ろに大動脈瘤が出て参ります。



胸部大動脈瘤の場合、何本かの枝付きの人工の血管に置き換えます。



大動脈弓部の人工血管置換術の場合(破裂症例を除く)、
 平均入院期間       約1ヶ月
 起こりえる合併症 脳梗塞、肺炎、縦隔炎など
 手術死亡率5.1%、入院死亡率8.5%
という成績です。成績は向上しつつありますが、まだまだ患者さんにとって大変な手術であることに間違いありません。


ステントグラフトとは?

ステントグラフトとは、ステントを内装したグラフトの事を言います。
具体的には・・・


ステント
ナイチノール、ステンレスなどの金属で出来た骨組み

グラフト(人工血管)
ポリエステル、PTFE(ゴアテックス)、ポリウレタンなどで出来た人工血管

ステントグラフトとは・・

ステントとグラフトを組み合わせて作成されたもので、予め専用のデリバリーシステムに格納されています。グラフトの中にステントを入れ、金属の張力で拡がる力を持っています。
大動脈瘤の内側に挿入、大動脈瘤に直接血圧の力がかかることを防ぐ為にこの様な道具が開発されました。腹部大動脈瘤に対しては1985年から、胸部大動脈瘤に対しては1992年から臨床への治療がスタート致しました。その後幾多の改良を経て、現在は医療機器メーカーから数種類のステントグラフトが発売されるに至りました。米国では、腹部大動脈瘤の場合既に半数以上がステントグラフト治療により治療されている状態です。




腹部大動脈瘤のステントグラフト治療

それでは、いよいよ腹部大動脈瘤のステントグラフト治療のお話です。
残念ながら、全ての大動脈瘤に対してステントグラフト治療は出来ません。ある一定の基準を満たした場合にのみ可能なのです。そこで、患者さんの大動脈瘤の部位を細かく計測することが大切です。ここで、マルチスライスCTが大活躍しているのです!
計測が終了したら、ステントグラフト治療が可能かどうかチェックを行います。




チェックが終了し、ステントグラフト治療が可能な場合、大動脈瘤の形態に合った形のステントグラフトを注文致します。すると、下のような筒(デリバリーシース)に入ったステントグラフトが届き、治療の準備が整います。



さて、実際のステントグラフト治療の様子です。両側の股の付け根を5-10cm程切開し、デリバリーシース(ステントグラフトを格納してある管)を大動脈瘤の場所に入れてゆきます。



正確な位置を把握する為、手術にはX線透視装置が必須です。
大動脈瘤の位置が確認出来れば、慎重にマーキングを行います。




さて、実際にステントグラフトを大動脈瘤内に出す瞬間です。やり直しの出来ない緊張する一瞬です!



手術は無輸血で行う事が出来、術後1日目の朝から食事開始、歩行も可能です。最近は経過の良好な方ですと手術後2~3日で退院が可能です。術後のCT画像では、大動脈瘤は造影されません。外来通院し、慎重に経過を見てゆきます。





胸部大動脈瘤へのステントグラフト治療

胸部大動脈瘤へのステントグラフトの治療は腹部に比べて遅れておりました。その理由として、



・胸部大動脈は曲がりが強く、ステントグラフトのデザインが難しい
・頸動脈などの重要な血管が近くにある
等が挙げられます。
しかし、最近新しいステントグラフトである胸部大動脈開窓型ステントが東京医科大学で開発されました。これは頸動脈等の大事な枝に血流が送れるよう、開窓してあるグラフトです。これにより胸部大動脈に留置が可能となりました。現在臨床試験を行っている段階であり、当心臓血管センターも治験参加施設として多数の症例に対しこのステント治療を行っております。





胸部大動脈瘤用ステントグラフトも計測が大切です。患者さん一人一人の大動脈瘤の計測を行い、適合した大動脈に対しステントグラフト治療を行っております。



治療を行うと、見事に瘤が造影されなくなります。これで、いつ破裂するか、という恐怖から解放されました。



今後、大動脈瘤に対するステントグラフト治療がますます増加してゆくと言われております。患者さんの身体に優しい低侵襲治療であり、これまでは手術不可能と言われていた患者さんにも治療の可能性が出てまいりました。しかしステントグラフト治療不可能な大動脈瘤もあり、患者さんお一人ずつ詳細に検討する事が必要です。又、ステントグラフトの長期遠隔成績は不明であり、今後も注意深い経過観察が必要です。我々は今後も慎重に適応を検討し一人でも多くの患者さんに治療が出来ればと考えております。